『プリズムの咲く庭』ネタバレ感想。この世界が溶けた風呂にずっと浸かりたい。
プリズムの咲く庭
原作者:海島 千本
全10編からなる短編集でどれも美しい世界観で海島さんの作品をずっと読んでいたい。早く新しい海島さんの短編集出ないかななんて思える素晴らしい作品でした。
各話ハイパーザックリあらすじ
①『髪はおんなの、』
→くせっ毛で悩む少女のお話です。
②『ゆるりと海とときどきイルカ』
→人見知りの人魚の少女が人間の友達を作りたいと悩む
③『やがて咲くラミウム』
→人一倍踊るのが好きだけど、仕事は雑用係。そんな彼女が旅画家と出会う。
④『ミルフィーユの日々』
→作家になりたいけど上手くいかない青年が、ある日森の中でバイオリンを弾く少女と会う。
⑤『魔女の館』
→魔女が出るという噂の館。そこではメイドと少年が平和に暮らしていた。
⑥『僕のソフィア』
→おじいさんが孫のために作ったロボットと、少年の交流。
⑦『Date with a CAT in Dubrovnik』
→旅行に来た女性が偶然出会った猫に街を案内してもらう。
⑧『雨の日』
→幼馴染の男女の物語。
⑨『妖精の耳』
→不思議な耳が生えてしまった少年が、耳をとってくれるという魔女を尋ねる。
⑩『続・髪はおんなの、』
→くせっ毛を気にする女の子が、結ってもらった髪のまま学校へ行く。
感想
作者の女の子への愛が凄い
最初の短編『髪はおんなの、』ではくせっ毛であることをコンプレックスに感じる女の子が登場します。そんな彼女がお姉さんから、髪の毛を結んでもらい、お気に入りの髪留めをつけてもらい「この髪も悪くない」と思い直していく物語です。要するに「くせっ毛!? 最高やん!!!」ってことを超絶画力を持って訴えてくるわけです。これ最早画力の暴力です。そんな素晴らしい、妥当な暴力性を帯びた作品が10編続きます。
他にも人間と仲良くなりたい人魚が主人公の『ゆるりと海とときどきイルカ』とか、自分に自信がないけど、踊ることが大好きな女の子『やがて咲くラミウム』。どちらの物語にも共通することは、最初は自分のアイデンティティにコンプレックスを抱えていたけど、最終的に「私は私でいていいんだ」と自分自身を肯定していく物語になっていくことです。
おそらくですけど海島千本さんはその辺の男より、女の子のことを愛していて、魅力をわかってるんだろうなぁと思います。
対比の表現
作品全体を通して、あまりセリフによる説明をせず、絵で伝えていることが多いです。その極みとして『ミルフィーユの日々』ではセリフが一切ありません。作中で森の中に佇む可憐な少女のバイオリンの音色は音符で表現しています。最初に登場する音符はヒビが入っているような黒く禍々しい形をしていて、彼女のバイオリンの腕がそれほどうまくないことがわかります。
それが物語終盤の方では、綺麗な音符に変わっていて、彼女のバイオリンの腕が飛躍的に進歩したことがわかります。
こういった絵による対比の表現が度々登場します。
『雨の日』では「雨の日は髪がしっけて気になる」と言っていた女の子が、幼馴染からのある一言から家を飛び出し、雨の中に傘もささずに飛び込みます。普段だったら髪が気になる子にとって、それを忘れるくらいの出来事だったということがわかって僕はこの短編集の中で最もこのシーンが好きです。
女の子が可愛い
女の子への愛が凄い、での話とちょっと話は被ります。でも勘弁してください。かわいいんだもん。
てかもう女の子だけじゃなく男の子もかわいいんですけどその辺は置いときます。
各短編の主人公の女の子がかわいいのはもちろんなんですけど、物語のモブキャラも皆可愛いんです。ちなみに僕が好きなモブキャラは『やがて咲くラミウム』に登場する踊り子で、やや癖のついた黒髪の女の子がたまりません。
こうゆう細かいところの作り込みがとても丁寧で何度でも読み返して味わい尽くしたいそんな短編集でした。
最後までご覧いただきありがとうございました。
作者さんのTwitterではエッセイ漫画なんてものも投稿されていて、そちらも海島さんの人柄も相まって面白いです。是非に。